東京地方裁判所 平成9年(ワ)19839号 判決 1998年8月27日
原告
社団法人日本音楽著作権協会
右代表者理事
加戸守行
右訴訟代理人弁護士
田中豊
同
藤原浩
同
馬橋隆紀
同
岡本弘哉
被告
三宅貞枝
外一名
被告
有限会社一暒
右代表者代表取締役
三宅貞枝
主文
一 被告らは、別紙店舗目録記載の店舗において、別紙「カラオケ楽曲リスト」及び「カラオケ楽曲リスト(追録)」各記載の音楽著作物を、次の方法により使用してはならない。
1 カラオケ装置を操作し又は顧客に操作させて伴奏音楽を再生する方法
2 カラオケ装置を操作し又は顧客に操作させてカラオケ用のビデオディスクに収録されている伴奏音楽及び歌詞の文字表示を再生する方法
3 カラオケ装置を操作し又は顧客に操作させて伴奏音楽に合わせて顧客に歌唱させる方法
二 被告らは、別紙物件目録記載のカラオケ関連機器を別紙店舗目録記載の店舗から撤去せよ。
三 被告らは、原告に対し、連帯して次の金員を支払え。
1 金五五〇万二三八三円及び
うち金五万三五六〇円に対する平成五年五月一日から、同額に対する同年六月一日から、同額に対する同年七月一日から、金七万〇〇四〇円に対する同年八月一日から、同額に対する同年九月一日から、同額に対する同年一〇月一日から、同額に対する同年一一月一日から、同額に対する同年一二月一日から、同額に対する同六年一月一日から、同額に対する同年二月一日から、同額に対する同年三月一日から、同額に対する同年四月一日から、同額に対する同年五月一日から、同額に対する同年六月一日から、同額に対する同年七月一日から、同額に対する同年八月一日から、同額に対する同年九月一日から、同額に対する同年一〇月一日から、同額に対する同年一一月一日から、金七万四一六〇円に対する同年一二月一日から、同額に対する同七年一月一日から、金七万五一九〇円に対する同年二月一日から、同額に対する同年三月一日から、同額に対する同年四月一日から、同額に対する同年五月一日から、同額に対する同年六月一日から、同額に対する同年七月一日から、同額に対する同年八月一日から、同額に対する同年九月一日から、同額に対する同年一〇月一日から、同額に対する同年一一月一日から、同額に対する同年一二月一日から、同額に対する同八年一月一日から、同額に対する同年二月一日から、同額に対する同年三月一日から、同額に対する同年四月一日から、同額に対する同年五月一日から、金七万七二五〇円に対する同年六月一日から、同額に対する同年七月一日から、同額に対する同年八月一日から、同額に対する同年九月一日から、同額に対する同年一〇月一日から、同額に対する同年一一月一日から、同額に対する同年一二月一日から、同額に対する同九年一月一日から、同額に対する同年二月一日から、同額に対する同年三月一日から、同額に対する同年四月一日から、金七万八七五〇円に対する同年五月一日から、同額に対する同年六月一日から、同額に対する同年七月一日から、同額に対する同年八月一日から、金二万五四〇三円に対する同月一一日から、金一七万九五五〇円に対する同年九月一一日から各支払済みまで、年五分の割合による金員
2 平成九年九月一一日から、被告らが別紙店舗目録記載の店舗における別紙「カラオケ楽曲リスト」及び「カラオケ楽曲リスト(追録)」各記載の音楽著作物の使用を停止するまで、一か月当たり金一七万九五五〇円の割合による金員
四 原告のその余の請求を棄却する。
五 訴訟費用は、これを二〇分し、その一を原告の負担とし、その余を被告らの連帯負担とする。
六 この判決のうち第一項ないし第三項は、仮に執行することができる。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 主文第一項、第二項、第三項2と同旨
2 被告らは、原告に対し、連帯して金五七二万七九五三円及び別紙遅延損害金目録記載の金員を支払え。
3 訴訟費用は、被告らの負担とする。
4 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は、原告の負担とする。
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 原告の権利
原告は、「著作権ニ関スル仲介業務ニ関スル法律」(昭和一四年法律第六七号)に基づく許可を受けたわが国唯一の音楽著作権仲介団体であり、内外国の音楽著作物の著作権者から著作権ないしその支分権(演奏権、録音権、上映権等)の移転を受ける(内国著作物については、その著作権者から著作権信託契約約款により、外国著作物については、わが国の締結した著作権条約に加盟する諸外国の著作権仲介団体との間の相互管理契約による。)などしてこれを管理し、国内の放送事業者をはじめ、レコード、映画、出版、興行、社交場、有線放送等各種の分野における音楽の使用者に対して音楽著作物の使用を許諾し、その対価として使用者から著作物使用料を徴収するとともに、これを内外の著作権者に分配することを主たる目的とする社団法人である。
別紙「カラオケ楽曲リスト」及び「カラオケ楽曲リスト(追録)」に各記載の音楽著作物(以下「管理著作物」という。)は、いずれも原告がその著作権者から著作権の信託的譲渡を受けて著作権を管理するものである。
2 被告らの行為
(一) 被告三宅貞枝(以下「被告三宅」という。)及び被告青木実こと邱金蔵(以下「被告青木」という。)は、平成元年一二月一六日ころから、別紙店舗目録記載の店舗(以下「本件店舗」という。)において、「ビッグエコー上尾店」の名称で、いわゆるカラオケボックスを営んでいる。
被告有限会社一(以下「被告会社」という。)は、平成二年五月一六日に設立されて以来、本件店舗において、被告三宅及び被告青木と共にカラオケボックスを営んでいる。
(二)(1) 本件店舗には、遅くとも平成五年四月一日までに別紙店舗見取図(以下「別紙見取図」という。)記載のとおり、カラオケ歌唱用の部屋が一七室(別紙見取図1ないし3、5ないし18)あり、別紙物件目録記載のカラオケ関連機器が備え付けられている。
(2) 別紙見取図記載の各部屋のうち、1ないし3、5及び17の各部屋ではレーザーディスクカラオケ(ビデオカラオケに属する。)が、6ないし15及び18の各部屋では通信カラオケ(ビデオカラオケに属する。)が、16の部屋ではCDカラオケ(オーディオカラオケに属する。)が、遅くとも平成五年四月一日以降現在に至るまで、それぞれカラオケ伴奏及び歌唱に使用されている。
(三) 本件店舗では、営業開始以来現在に至るまで、顧客から利用予定時間に対応する代金を受領して、顧客に対し、各部屋で使用するカラオケ機器のリモコン装置及び使用する部屋の番号札を渡し、カラオケ関連機器を設置した部屋を使用させ、カラオケ関連機器を操作させて、管理著作物を再生し、伴奏音楽に合わせて顧客に歌唱させるとともに、飲食物を提供している。また、顧客からカラオケ機器の操作方法を尋ねられたときには、被告らの従業員がカラオケ機器を操作して操作方法を教示している。
3 被告らによる著作権侵害
本件店舗において、被告らは、顧客に飲食物の提供を行い、カラオケボックスであることを表示することにより顧客に音楽を鑑賞させることを営業の内容とする旨を広告し、別紙物件目録記載のカラオケ関連機器を設置することにより顧客に音楽を鑑賞させるための特別の設備を設けているから、本件店舗における営業は著作権法施行令附則三条一号に該当し、著作権法附則一四条の適用が除外されるものであるところ、被告らは、次のとおり管理著作物の著作権を侵害している。
(一) 伴奏音楽の再生による演奏権の侵害
被告らは、別紙見取図6ないし16及び18の各部屋において、通信カラオケ又はCDカラオケにより、管理著作物の伴奏音楽を公に再生し、演奏権(著作権法二二条)を侵害している。
(二) 映画の著作物において複製されている歌詞及び伴奏音楽の再生による上映権の侵害
被告らは、別紙見取図1ないし3、5及び17の各部屋において、レーザーディスクカラオケの再生により、映画の著作物において複製されている管理著作物たる歌詞及び伴奏音楽を公に再生し、その上映権(著作権法二六条二項)を侵害している。
(三) 顧客の歌唱による演奏権の侵害
被告らは、別紙見取図1ないし3及び5ないし18の各部屋において、カラオケ関連機器を使って管理著作物を顧客に公に歌唱させ、演奏権(著作権法二二条)を侵害している。
4 原告の損害
(一) 原告は、被告らの平成五年四月一日から同九年九月一〇日までの前記著作権侵害により、少なくとも以下のとおりの管理著作物の使用料相当額の損害を被った。
(1) 平成五年四月一日から同九年八月一〇日までの使用料相当額
① 昭和五九年六月一日認可の著作物使用料規程第二章第二節演奏等3の「演奏会以外の催物における演奏(7)その他の演奏」の規定に基づき定められた「カラオケ歌唱室の使用料率表」によれば、カラオケボックスにおける一部屋ごとの管理著作物の使用料相当額は、(ア)平成五年四月一日から同九年三月三一日までは、定員が一〇名までの部屋(以下「小部屋」という。)については、オーディオカラオケで月額三〇九〇円、ビデオカラオケで月額四一二〇円、定員が一〇名を超え三〇名までの部屋(以下「中部屋」という。)については、ビデオカラオケで月額八二四〇円であり、(イ)平成九年四月一日から同年八月一〇日までは、小部屋については、オーディオカラオケで月額三一五〇円、ビデオカラオケで月額四二〇〇円、中部屋については、ビデオカラオケで月額八四〇〇円である。
② 本件店舗には、小部屋が一五室(別紙見取図1ないし3、5ないし16)あり、そのうち一室(別紙見取図16)ではオーディオカラオケが、その他の一四室ではビデオカラオケが利用でき、また、中部屋が二室(別紙見取図17及び18)あり、これらの部屋ではビデオカラオケが利用できる。
③ したがって、本件店舗における平成五年四月一日から同九年八月一〇日までの管理著作物の使用料相当額は、合計四〇四万八四〇三円である。
(2) 平成九年八月一一日から同年九月一〇日までの使用料相当額
① 平成九年八月一一日、著作権使用料規程が文化庁によって一部変更され、同日から施行されたところ、同規程第二章第二節演奏等4「カラオケ施設における演奏等(1)」によれば、カラオケボックスにおける同日以降の一部屋ごとの管理著作物の使用料相当額は、小部屋については月額九四五〇円、中部屋については月額一万八九〇〇円である。
② 本件店舗には、小部屋が一五室(別紙見取図1ないし3、5ないし16)あり、中部屋が二室(別紙見取図17及び18)ある。
③ したがって、本件店舗における平成九年八月一一日から同九月一〇日までの管理著作物の使用料相当額は、合計一七万九五五〇円である。
(二) 原告は、被告らの前記著作権侵害により、平成九年九月一一日以降も、被告らが本件店舗における管理著作物の使用を停止するまで、管理著作物の使用料相当額の損害として一か月当たり一七万九五五〇円の損害を被る。
(三) 原告は、本件訴訟の提起を弁護士に依頼せざるを得なかったところ、その費用は一五〇万円を下らない。
5 よって、原告は、被告らに対し、著作権法一一二条一項に基き管理著作物の使用の差止めを、同条二項に基き専ら著作権侵害行為に供された機械又は器具である別紙物件目録記載のカラオケ関連機器の本件店舗からの撤去を求めるとともに、不法行為による損害賠償として、連帯して金五七二万七九五三円及びこれに対する別紙遅延損害金目録記載の遅延損害金並びに平成九年九月一一日から被告らが本件店舗における管理著作物の使用を停止するまで一か月当たり金一七万九五五〇円の割合による金員を支払うことを求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1の事実は不知
2(一) 同2(一)の事実は認める。
(二) 同2(二)の事実のうち、本件店舗に現在別紙見取図記載のとおり、カラオケ歌唱用の部屋が一七室あり、別紙物件目録記載のカラオケ関連機器が備え付けられていることは認める。別紙見取図17の部屋は間口3.5メートル奥行6.5メートル、同18の部屋は間口四メートル奥行七メートルであり、その余の部屋は間口2.5メートル奥行六メートルである。本件店舗は、CDカラオケ八室、レーザーディスクカラオケ七室の合計一五室の小部屋で営業を開始し、平成五年六月に17及び18の部屋を増設したものである。通信カラオケは、その後、平成六年一〇月に小部屋四室、同年一二月に小部屋一室、平成八年四月に小部屋五室、同年一〇月に18の部屋に備え付けたものである。なお、別紙見取図に「事務所」とある場所は厨房である。
別紙見取図記載の部屋(ただし、1、2及び16の部屋を除く。)において現在原告主張のカラオケ機器がカラオケ伴奏及び歌唱に使用されていることは認める。1及び2の各部屋は平成八年一月一日に、16の部屋は同九年三月に、それぞれ閉鎖し、以後使用していない。
(三) 請求原因2(三)の事実は認める。
3 同3は争う。
4 同4の事実は否認する。
三 被告らの主張
1 使用許諾
原告は、管理著作物の業務用カラオケソフトの製作をその製作者に許諾していることによって、被告らが右製作者との契約に基いて、本件店舗において右カラオケソフトを再生し、これに合わせて顧客に歌唱させることについても許諾をしていることになる。
2 権利濫用
被告らが原告と著作物使用許諾契約を締結していないのは、専らこれまで原告が、被告青木からの度重なる質問状に答えないなど不誠実な態度をとってきたことに基因するものであるから、原告の本件請求は権利の濫用である。
理由
第一 甲第一、二号証及び弁論の全趣旨によれば、請求原因1(原告の権利)の事実が認められる。
第二 請求原因2(被告らの行為)について
一 請求原因2(一)の事実は、当事者間に争いがない。
二 請求原因2(二)の事実のうち、本件店舗に、現在、別紙見取図記載のとおり、カラオケ歌唱用の部屋が一七室あり、別紙物件目録記載のカラオケ関連機器が備え付けられていること及び現在3、5及び17の各部屋においてレーザーディスクカラオケが、6ないし15及び18の各部屋において通信カラオケが、カラオケ伴奏及び歌唱にそれぞれ使用されていることは当事者間に争いがない。
甲第一〇号証及び弁論の全趣旨によれば、本件店舗では、別紙見取図1及び2の各部屋において平成八年一月以降もレーザーディスクカラオケが、同16の部屋において同九年三月以降もCDカラオケが、いずれも引き続き現在に至るまでカラオケ伴奏及び歌唱に使用されていることが認められる。
三 請求原因2(三)の事実は、当事者間に争いがない。
第三 請求原因3(被告らによる著作権侵害)について
一 本件店舗のカラオケ歌唱用の各部屋においては、主として顧客自らが各部屋に設置されたカラオケ装置を操作し、通信カラオケ又はCDカラオケにより管理著作物である伴奏音楽の再生による演奏が行われ、管理著作物たる歌詞及び伴奏音楽の複製物を含む映画著作物であるレーザーディスクカラオケの上映によって、管理著作物たる歌詞及び伴奏音楽の複製物の上映が行われていることが認められるところ、前認定のとおり、本件店舗の経営者である被告らは各部屋にカラオケ装置を設置して顧客が容易にカラオケ装置を操作できるようにした上で顧客を各部屋に案内し、顧客から求められれば被告らの従業員がカラオケ装置を操作して操作方法を教示しているのであり、顧客は被告らが用意した曲目の範囲内で選曲するほかないことに照らせば、被告らは、顧客の選曲に従って自ら直接カラオケ装置を操作する代わりに顧客に操作させているということができるから、各部屋においてカラオケ装置によって前記のとおり管理著作物の演奏ないしその複製物を含む映画著作物の上映を行っている主体は、被告らであるというべきである。
二 また、本件店舗のカラオケ歌唱用の各部屋においては、顧客が各部屋に設置されたカラオケ装置を操作し、再生された伴奏音楽に合わせて歌唱することによって、管理著作物の演奏が行われていることが認められるところ、被告らは各部屋にカラオケ装置と共に楽曲索引を備え置いて顧客の選曲の便に供し、また、顧客の求めに応じて従業員がカラオケ装置を操作して操作方法を教示するなどし、顧客は指定された部屋において定められた時間の範囲内で時間に応じた料金を支払って歌唱し、歌唱する曲目は被告らが用意したカラオケソフトに収納されている範囲に限られることなどからすれば、顧客による歌唱は、本件店舗の経営者である被告らの管理の下で行われているというべきであり、また、カラオケボックス営業の性質上、被告らは、顧客に歌唱させることによって直接的に営業上の利益を得ていることは明らかである。
このように、顧客は被告らの管理の下で歌唱し、被告らは顧客に歌唱させることによって営業上の利益を得ていることからすれば、各部屋における顧客の歌唱による管理著作物の演奏についても、その主体は本件店舗の経営者である被告らであるというべきである。
三 そして、前記一及び二で認定したように、伴奏音楽の再生及び顧客の歌唱により管理著作物を演奏し、その複製物を含む映画著作物を上映している主体である被告らにとって、本件店舗に来店する顧客は不特定多数の者であるから、右の演奏及び上映は、公衆に直接聞かせ、見せることを目的とするものということができる。
四 ところで、著作権法附則一四条によれば、適法に録音された音楽の著作物の演奏の再生については、公衆送信に該当するもの及び営利を目的として音楽の著作物を使用する事業で政令(著作権法施行令附則三条)で定めるものにおいて行われるものを除き、当分の間自由に行い得るものとされている。
この点につき検討するに、被告らは本件店舗において顧客に飲食物の提供を行っている(当事者間に争いがない。)から、被告らの本件店舗における営業は、著作権法施行令附則三条一号の「喫茶店その他客に飲食させる営業」に該当する。また、顧客がカラオケボックスにおいてカラオケの伴奏音楽を再生してこれを聴くこと及び再生された伴奏音楽に合わせて歌唱を行ってこれを聴くことは、いずれも「音楽の鑑賞」に当たり、弁論の全趣旨によれば、被告らは本件店舗においてカラオケボックスであることを表示して営業している(被告らは、この点を争うことを明らかにしない。)から「客に音楽を鑑賞させることを営業の内容とする旨を広告し」ているというべきであり、本件店舗のカラオケ歌唱用の各部屋に別紙物件目録記載のカラオケ関連機器を設置することにより「客に音楽を鑑賞させるための特別の設備を設けている」というべきである。
したがって、被告らの本件店舗における営業は、著作権法施行令附則三条一号の事業に該当するから、著作権法附則一四条は適用されない。
五 以上によれば、被告らは、本件店舗においてカラオケ関連機器を使って、①管理著作物である伴奏音楽を公に再生することにより管理著作物の演奏権を侵害し、②映画の著作物において複製されている管理著作物たる歌詞及び伴奏音楽を公に上映してその上映権を侵害し、③再生された伴奏音楽に合わせて管理著作物を顧客に公に歌唱させることにより管理著作物の演奏権を侵害しているものと認められる。
第四 被告らの主張について
一 使用許諾について
被告らは、原告は、管理著作物の業務用カラオケソフトの製作をその製作者に許諾していることによって、被告らが右製作者との契約に基いて、本件店舗において右カラオケソフトを再生し、これに合わせて顧客に歌唱させる行為についても許諾をしている旨主張する。
しかしながら、カラオケソフトを製作する行為と、製作されたカラオケソフトをカラオケボックスの店舗において公に再生すること及びこれに合わせて公に顧客に歌唱させることとは、明らかに別個の行為というべきところ、甲第七号証の一ないし三及び甲第八号証によれば、原告と業務用カラオケソフト製作者との契約では、管理著作物の複製及び店舗への送信のみが許諾の対象とされ、店舗における管理著作物の再生及びこれに合わせた歌唱については許諾の対象とされていないことが認められるから、被告らの前記主張は理由がない。
二 権利濫用について
被告らは、被告らと原告とのこれまでの交渉経緯等に照らし、原告の本件請求は、権利濫用である旨主張する。
しかしながら、本件全証拠を総合しても、被告らが原告と著作物使用許諾契約を締結していないことが専ら原告の不誠実な対応に基因するといった事情を認めることはできず、そのほかに、原告の本件請求が権利の濫用に当たるものというべき事情も認められないから、被告らの主張は失当であって、採用することができない。
第五 請求原因4(原告の損害)について
一1 被告らは、共同して前記の著作権侵害行為を行っており、前記認定事実によれば右侵害行為につき被告らに故意又は過失があることは明らかであるから、被告らは、これによって原告が被った損害を連帯して賠償すべき責任があるところ、原告が被った損害は、少なくとも原告の定める管理著作物の使用料の相当額を下回らない。
甲第四ないし第六号証及び弁論の全趣旨によれば、平成五年四月一日以降における管理著作物の使用料相当額は、請求原因4(一)(1)①、(2)①記載のとおりであることが認められる。
2 弁論の全趣旨によれば、本件店舗におけるカラオケ歌唱用の各部屋のうち、別紙見取図記載の1ないし3及び5ないし16の各部屋の広さは約一五平方メートルであり、いずれも小部屋に該当すること、17の部屋の広さは約二三平方メートル、18の部屋の広さは約二八平方メートル(各部屋の広さは被告らの自認するものである。)であって、その広さに照らすと、17及び18の部屋はいずれも中部屋に該当することが認められる。
本件店舗がCDカラオケ八室、レーザーディスクカラオケ七室の合計一五室の小部屋で営業を開始し、平成五年六月に中部屋二室を増設したものであること及び通信カラオケは、平成六年一〇月に小部屋四室、同年一二月に小部屋一室、平成八年四月に小部屋五室、同年一〇月に中部屋一室に備え付けたものであることは、被告らの自認するところであり、右事実に乙第二四号証の一ないし四を総合すると、平成五年四月一日以降の本件店舗におけるカラオケ機器の使用状況は、次のとおりであったことが認められる。
(一) 平成五年四月から同年六月まで
CDカラオケ小部屋八室、レーザーディスクカラオケ小部屋七室
(二) 平成五年七月から同六年一〇月まで
CDカラオケ小部屋八室、レーザーディスクカラオケ中部屋二室、小部屋七室
(三) 平成六年一一月から同年一二月まで
CDカラオケ小部屋四室、レーザーディスクカラオケ中部屋二室、小部屋七室、通信カラオケ小部屋四室
(四) 平成七年一月から同八年四月まで
CDカラオケ小部屋三室、レーザーディスクカラオケ中部屋二室、小部屋七室、通信カラオケ小部屋五室
(五) 平成八年五月から同年一〇月まで
CDカラオケ小部屋一室、レーザーディスクカラオケ中部屋二室、小部屋四室、通信カラオケ小部屋一〇室
(六) 平成八年一一月以降
CDカラオケ小部屋一室、レーザーディスクカラオケ中部屋一室、小部屋四室、通信カラオケ中部屋一室、小部屋一〇室
甲第四ないし第六号証及び弁論の全趣旨によれば、右CDカラオケは「カラオケ歌唱室の使用料率表」(甲第五号証)における「オーディオカラオケ」に、レーザーディスクカラオケ及び通信カラオケは右使用料率表における「ビデオカラオケ」にそれぞれ該当するものと認められる。
3 以上によれば、原告が被告らの前記著作権侵害によって被った使用料相当額の損害は、(一)平成五年四月から六月まで月額五万三五六〇円、(二)同年七月から同六年一〇月まで月額七万〇〇四〇円、(三)同年一一月から一二月まで月額七万四一六〇円、(四)同七年一月から同八年四月まで月額七万五一九〇円、(五)同年五月から同九年三月まで月額七万七二五〇円、(六)同年四月から七月まで月額七万八七五〇円、(七)同年八月一日から一〇日まで二万五四〇三円、(八)同月一一日から同年九月一〇日まで一七万九五五〇円、(九)同月一一月以降月額一七万九五五〇円であり、右損害額を合計すると平成五年四月一日から同九年九月一〇日までの侵害にかかるものが合計四〇〇万二三八三円であり、同月一一日以降の侵害にかかるものが一か月当たり一七万九五五〇円である。
二 原告は、本件訴訟の提起を弁護士に依頼しているところ、本件事案及び本件請求の内容を総合すれば、被告らの前記著作権侵害と相当因果関係のある弁護士費用相当の損害額は、一五〇万円を下らないものと認められる。
第六 結論
以上によれば、本件請求については、被告らに対し、著作権法一一二条に基き、主文第一項の管理著作物の使用差止め及び主文第二項のカラオケ関連機器の本件店舗からの撤去を求める請求は理由があり、不法行為による損害賠償として連帯して金員の支払を求める請求は、前記の損害額及び各月の損害額につき不法行為の後である主文第三項1記載の日から各支払済みまで民法所定の年五分の遅延損害金の支払を求める限度において理由があるから(主文第三項の2の金員のうち、本件訴訟の口頭弁論終結日の翌日以降の損害に対応する金員の支払を求める部分は、将来の給付を求めるものであるが、あらかじめ判決を求める必要があるものと認められる。)、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官三村量一 裁判官長谷川浩二 裁判官大西勝滋)
別紙店舗目録<省略>
別紙カラオケ楽曲リスト<省略>
別紙物件目録<省略>
別紙遅延損害金目録<省略>
別紙店舗見取図<省略>